懐かしい話、恐ろしい話

師匠のブログを見に行って久しぶりに思い出した。
今はないオーディオ屋とその弟子だった私の知り合い(と言うほど親しくもなかったが)のことを。
その方は私の2405(JBLのツイータ)の元のオーナーであった。2405はその人自体はたぶん自分で買ったは良いがその人の師匠だったオーディオ屋さんにケチョンケチョンに言われ手放す気で御倉に入っていたんだろうと思われる。ワンオーナーで大切にしていたんだろうと思う。特上品を比較的安価で私は手に入れることが出来た。
問題はその後に彼が手に入れたツイータである。か〇〇製のツイータである。一部の高級オーディオマニア垂涎の品である。
聴かせてもらった。高域がうるさい。何かかぶってきて喧しくて聴けたものではない。試聴を止めて私の師匠がかのツイータを手にとってツイータのホーン部分を指の爪先で弾くと「ちーうぃんうぃん」と音がしやがる。「ちーん」と言う仏壇の鐘のような音+余韻にうなりのような音が混じっている感じであった。
鳴いてる。ツイータのホーンが鳴いてやがる。そら喧しいわな。ツイータが音を出す度ホーンが鳴くんだもの。
で、師匠が鳴き止めのデッドニングを行った。具体的にはホーンに鉛を巻いただけだったと思うけど。再度音出しをしてみたら今度は少し線が細いがそれでもかっちりとした良い高音が素直に出てくる。そのツイータのオーナーも良い音が出たとその場ではかなり喜んでくれた。ように見えた。
私はこれきりその方の所には行っていないのでその後の展開は師匠から聞いた。その方の師匠であるオーディオ屋さんがやってきてそのか〇〇製のツイータに鉛が巻いてあるのを見て激怒したそうである。で即座にそのツイータから鉛が外されたらしい。たぶん、オーディオ屋さんからその方はかなり絞られたみたいである。結局、その方はその状態を受け入れてデットニング後よりもその前の鳴くホーンの方が良いと言い出した。らしい。
自分の耳で感じたことよりもオーディオ屋さんの行ったことを信じたわけですから、まぁどうしようもないです。これからこの方はこのオーディオ屋さんの言いなりに半端じゃない金額を払ってオーディオ機器を買い続けることになるだろうし、一方その中で一度は良いと思った自分の内心の音に背を向け自分を騙し続けることになる。彼は自分が求めている「良い音」には決して辿り着くことはない。苦しみが続くだろうなと思った。噂ではそれ以降も彼のシステムは落ち着くことなくオーディオの無間地獄へはまり込んでいったらしい。
その後、しばらく彼の噂は聞こえていたが明らかに方向性が違う彼の音を私は聞きたくもなかったのであえて行くこともなかった。
現在、私は彼のうわさを聞くことはほとんどない。

彼はオーディオに何を求めたんだろうか。
自分がいいと思う音?違う。彼は最初にそれに背を向けた。人がいいと思う音?かれはそれを求めた。人とは誰?万人の称賛を獲たかったのか?我々ではなくオーディオの世界の権威としてのオーディオ屋?
しかし、彼の噂が聞こえていた最後のころ、彼に最も親しかった方も彼のことを批判し、彼から離れていった。彼が自分の内面に背を向けたように。