深海のパイロット 藤崎慎吾

深海のパイロット (光文社新書)

深海のパイロット (光文社新書)

読了した。
文章は日本の潜水調査船の歴史をなぞりながら潜水調査船のパイロットたちを通して様々なエピソードをイキイキと紹介して行く。
この前半の藤崎氏の文章があって後半の二人のパイロットの文章がより臨場感をもって迫ってくる。
面白いなと思ったのは毛利衛さんがしんかい6500に乗った時のエピソードである。
このエピソードを敷衍した言葉がこの本の帯を飾っていた。「宇宙の暗さと、深海の暗さは違う。人が行かなければ、それはわからない」。
自分のつたない経験からもそれは言えると思う。私自身、ボランティアの一環でネパールに行く。移動する車がたてる猛烈なほこりで口の中がじゃりじゃりになる感触、ギャップに跳ね上げられて車の天井で頭を打った時のあの痛み、垢と汚れで煮しめたようになっている子供たちの服と共にネパールと言う場所の感触が実感として身体に焼き付けられる。嗅覚とか触覚とか痛覚を伴ったネパールを言わば全身で感じている。
あれはテレビ越しや写真越しでは伝わらない。
実際に行くことをやめてしまったら、そこからはリアリティが無くなってしまう。リアリティを失ってしまったら科学で一番大事だと思う想像が働かない。
そういう意味で、海底有人探査を止める事は長期的に見たら撤退するに近いことだと思う。彼らはそれを憂いていた。

著者の一人である藤崎慎吾氏ですがやっぱりハイドゥナンの作者だった。氏はこの本を書いたときはまだ実際に潜水調査船に乗っていなかったみたいだけど、その後しんかい6500に乗ったらしい。
氏のHPはi-藤崎慎吾である。
ハイドゥナンのほかにデビュー作のクリスタルサイレンスは読んだことがある。

クリスタルサイレンス〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

クリスタルサイレンス〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

クリスタルサイレンス〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

クリスタルサイレンス〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)

こちらは海洋ものではなくどちらかと言えば宇宙もの。
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