よしなしごと

 今、電車で前に座っているスーツ姿のオネーさん、朝、職場の売店で親しげに笑いながら挨拶してきた。見た記憶があるような無いような。

 途中まで帰りかけていた。
 システムの障害で電車を降りてしょうことなしに職場に戻り、問題を退治して電車に乗ったらそのおねーさんがやはり親しげに挨拶をして前に座った。

 誰だろう。

 人に対する記憶はだんだん落ちて行っているのは確かである。よほど印象的な人でないと覚えていない。記憶力が落ちて行っているのか、それともバタバタする日々の中に埋没することでそういったことを覚える努力を怠っているのか、わからない。

 こうやって、縁があった人をその他大勢の中に押し込めて行っている。
 やがて、自分も他者からその他大勢の中に押し込められてゆくんだろう。それを望んでいる自分がいるような気もする。

 今、おねーさんは前の座席でうつらうつらとうたた寝をしている。
 彼女が起きたら、同じ終点駅で降りたら訊いてみようかな。